右も左も皆同じ「差別をするなよ」

 たとえば「日経」(一月一八日)の社会面トップに、次のような大見出しがある。
 「佐川急便株 右翼に譲渡」。中を読むと、佐川の創業者で会長(七九)の所有する同社株すべてが「右翼団体幹部」の手に渡り、その男は佐川本社に乗り込んで配当を要求したという。高齢の大株主がいる会社には、えてしてそういうことが起こる。
 記事はまた、佐川幹部には過去に政界や暴力団との癒着があったこと、現社長は「闇の勢力」との訣別へ努力中であること、問題の右翼団体はまだ「日経」の取材に応えていないこと、が記されている。
 この記事自体には、ケチをつけるつもりはない。だが、こういう記事を読み終え、ひと息おいて思うのは「日本に左翼団体はあるのか?」ということである。日頃の紙面から、読者は右翼とは暴力団や総会屋とグルの悪い連中だと、漠然と感じている。ところが新聞に「左翼団体」が悪いことをした話が、かつて出たことがない。
 海上自衛隊が米艦に洋上給油するため出動する。そのとき基地前を「テロに反対。報復やめろ」と叫んで練り回る一団がある。左翼活動家ではないか?いや、新聞には「市民団体や労組員たち」と載る。
 開港して二十年以上経つ空港に反対し続け、空港職員の私宅に放火する犯人は、きまって「過激派」と書かれる。本当は「左翼過激派」と呼ぶべきじゃないか?日本の新聞によれば左翼は普通の人々、左翼でない者はみな右翼、組織暴力団につながる、偏差値の低い犯罪予備軍、と十把一からげにされてしまう。
 実はアメリカにも同様のことがあるらしい。「産経」(一月一四日)ワシントンの古森義久記者によると、米メディアはシンクタンクのヘリテージ財団には必ず「保守系の」と前置句を付けるのだそうだ。反して民主党系のブルックキングス研究所は何も冠しない。左翼でない者を右寄りとか辛口と形容する日本と同じである。
 先代ブッシュ大統領(共和党)の頃、大手のテレビ、新聞はホームレス問題を「政治が悪い」というニュアンスで71回も報道した。クリントン(民主党)時代には、ホームレスの数は同じなのに、たった9回だったそうである。
 読者は、よく気をつけた方がいい。日本の新聞の大半は左翼なのだ。だから彼らの目には右翼の悪だけが見え、燈台の下の左翼は暗くて見えない。市民団体が何かしたと新聞が囃すとき、それはたいてい左翼市民団体である。メディアの相当数は、民主主義人民共和国の身内だ。だから拉致された十人を取り返そうなんて気さらさらないのだ。