「ケチ」はオーナーになるな

 米同時多発テロで、すっかりかすんでしまった新宿歌舞伎町の事故。間口六メートルほどのぺンシルピルで四十四人もの犠牲者が出たことに何より驚かされた。歓楽街の、しかも雑居ビルの火事の怖さをまざまざと見せつけられた。東京・新宿の歌舞伎町は、飲食店、風俗店だけで約一万軒を数え、一日に三十万人が集まる。金曜日の深夜ともなれぱ、しばしぱ「不夜城」にもたとえられる日本一のこの歓楽街は、一層のにぎわいを見せる。出火した「明星五六ビル」三、四階のマージャンゲーム店、飲食店にもそれぞれ二十人ほどの客が入っていたという。多くの客のくつろいだ週末が突然の炎と煙りで暗転した。お悔やみの言葉もない。
 このビルのワンフロアの面積はわずか八三平方メートルだ。それが、八二年のホテル・ニュージャパンの火災より多い犠牲者を出したのは、もちろんこの夜の混雑だけが理由ではない。まず、このビルの構造に問題はなかったか。外に避難階段があれぱ犠牲はもっと少なくてすんだはずだ。一つしかない階段が煙突の役目を果たして惨事につながることは、過去に何度もあった。
 避難階段の設置義務は小規模ビルにはない。総じて小規模ビルに対する消防法などの規制は大規模ビルに比ベて緩い。早急な対応が必要だ。ビルの通りに面した表側の窓は、全面が赤や黄色のシート類で覆われていた。ビル全体が密室化して、避難の妨げになったことは容易に想像できる。同じような光景は歓楽街ではよく見かける。安全上の問題以前に、美観上からも、こんなことが許されているのは不思議としか言いようがない。ビルの安全管理というソフト面での問題も多い。
 法律で求められている防火管理者、消防計画の届け出がなかった。定期的な避難訓練なども行われていた形跡はまったくないという。結果的にそれを放置した形となった消防署も責めを負わなけれぱならない。人手不足などと弁明しているが、監視体制の見直しも必要だ。二年前の消防署の立ち入り検査から、すでに入居者が代わっていた。テナントがころころ代わる歓楽街の雑居ビルだからこそ不断の指導が重要になってくる。消防署の責任は重い。原因については警察などで放火も含めて調べが続いている。
 解明は今後の捜査を侍たなければならないが、小さなビルの大惨事は、一面では起こるべくして起きた。汲むべき教訓は尽きない。歌舞伎町ほどではないにせよ、全国の歓楽街にも似たような環境の雑居ビルは多い。徹底的な点検が必要だ。またビルオーナーの管理責任をきっちりとしてほしいものだ。明星ビルのテナント料は月に百万円、新規入所時には一千万円が必要だったという。それでも、このビルのオーナーはビルに対して一銭のお金もかけなかったという。以前から問題のオーナーであった事は間違いない。外階段などもってのほか、家賃を取る事はあってもビルに対して……。
 こんな考えが、多くの犠牲者を生んだ。放火の疑いも取り沙汰されるなか、ビルをめぐるトラブルも指摘され、捜査本部では問題のビル所有者の周辺にも関心を示している。「ケチ」はオーナーになってはいけない。