四十年前の誤認逮捕

 誤認逮捕とはいかにして起こるのか。今から四十年前、まだ学生だった友人が警察の巧妙な取り調べの罠にはまり、友人の人生を狂わす重大な汚点を作った体験を話したいと思います。時代は昭和三十年代、戦後の混乱もようやく収まり経済成長の波にのり、そこに働く意欲に満ちた人々の汗にまみれた姿をみることの出来た時代だった。当時の友人は青雲の志を抱き学生時代を過ごし、大いに青春を謳歌していた。
 ある日突然警察からの呼び出しがあり、出頭するとその場で逮捕されてしまった。
 理由の分からないまま取り調べが始まり、何のことで逮捕されたかと質問すると、「親の脛をかじっている人間が一人前の言葉を使うな」、「お前らは半人前なんだ」と恫喝された。この時点で私の気持ちは動転し、事実精神的に萎縮してしまったのです。事件の内容は、私の後輩が仲間から金銭を脅し取ったということであり、たまたまその事件の後にそのようなことがあったことを全く知らずに、その後輩から金銭を借りたのです。警察は「おまえが指示して後輩にやらせたのだろう」と厳しく追及してきたのです。
 事実その友人にとっては全く知らなかったことで、友人が取調官にどのように申し立てても、聞き入れようとはせず、「お前はくどくど言い訳をしているけど、お前は彼の先輩として本来なら彼をかばうのは当たり前だよな」と急に同情したように優しい言葉でおだて上げ、「本当はお前がやれといったんだよな」と私の返答も待たずに、こつこつとぺンを動かし調書を書いていた。
 友人は取調宮に対して、違います、そうですと答えるのが精一杯だったのです。さらにその調書が読み返しもなく「これにサインすれば今日は終わりにする」と差し出され、これもまた意味も分からず、早く終わって欲しい一心でサインをしてしまったのです。罪名は「恐喝教唆」。人として、人間として、その人権は全く認めてもらえなかった。