野放し状熊の不法廃棄物の山

 愛知県の渥美半島の先端に位置する渥美町で、地元住民および漁業関係者を怒らせているとんでもない事件が起きている。
 中部電力渥美火力発電所に隣接している約八万平方メートルの土地に、五十万トンもの不法廃棄物が投棄されているという。廃棄物の正体は、中部電力渥美火力発電所から発生する廃棄物や建設業者が不法に投棄した建築廃材や動物残澄(くらげ)などで、廃棄物は山のようになっていると現地から報告されている。
 この廃棄物を除去するためには、約二百億円もの経費が必要であるといわれている。地元住民および漁業関係者は、廃棄物から流出する危険物質などで地下水や海岸が汚染され、地元の特産である貝類の生育に及ぼす影響を懸念している。今後早急な解決が望まれるところであるが、行政の対応に安心して委ねられない地元の特殊事情があり、余計に関係者の不安を一層つのらせているようである。
 なぜこのような事態が長く放置されていたのか。この裏には、既に背任容疑で名古屋地検特捜部に逮捕されている小中山漁協の前組合長土井文二と中部電力、渥美町行政の長年に渡る癒着が指摘されている。地元関係者によると、前組合長の土井文二は、一九六○年代末に同地に火力発電所建設をめぐる漁業補償の交渉に際して、当時小中山漁協の理事としてその交渉にあたり、当初数千万円と目されていた報償額を三億円まで引き上げたといわれている。
 その後、交渉決着の実績を買われて同漁協の組合長に就任、その後も火力発電所と地元の有力なパイプ役として、中部電力から「漁業協力費」の名目で多額の資金を引き出す一方、発電所に関わる事業は自らの親族が経営する土井組および渥美総合サービス(株)に優先的に発注させるなど、地元の利権を一手に治めるようになり、誰も口出しできないといった状態が町の行政側にまで及んでいた。
 漁協の資金で町の料亭で頻繁に宴会を開き、中部電力や県の漁協担当者らを接待。癒着の構図は土井文二を中心に揺るぎないものになっていった。今回の不法投棄についても、かなり以前から間題を指摘する地元住民の声があったが、このような癒着の構図のなかで黙殺され、結局何等解決されることなく今日にいたっている。地元住民がもっと協力しあって、毅然と改善を求めていたならばこのような事態にはならなかったのではないかと思うと残念でならない。
 この元凶ともいうべき小中山漁協の前組合長土井文二は、先頃アサリ放流事業の補助金をめぐる背任行為で逮捕されている。
 愛知県では、県内の漁業振興や水産業の発展を図ることを目的に、県と県内九市十一町が出資して公益法人「愛知県水産業振興基金」を設立している。アサリを育成促進するために毎年アサリの稚貝が放流されており、稚貝購入費の半分を同基金が助成していた。
 土井文二が会長を務めていた「渥美町八ヶ漁協振興事業連合会」にも同様の助成金が支給されていたが、土井文二はそれを悪用し、架空の購入費を捏造、九七年度までの五年間に受け取った助成金額三千七百万円のうち、一千万円を超える助成金を水増しし不正に受け取っていたもの。
 土井文二は地元の利権を一手に治める実力者として、その地位を揺るぎないものにしていたが、不法廃棄物の件と同様、誰もが見て見ぬ振りをする状態が長い間続いていた。
 土井文二の孫の婚礼の出席者リストをみても漁協関係者はもとより、地元警察署、中部電力のお歴々が揃って出席しており、癒着の構造は目に余るものがあった。不法投棄の件もそうだが、不正を指摘する声は以前からささやかれており、その火種をもう少し早い段階で改善できていたならば、問題をこのように大きくすることはなかったのではないだろうか。
 地元住民は、もっと怒りを表に出していかなければ、また同じような間題を繰り返すことになるのではないか。この問題は、何も渥美町だけの間題ではなくどこにでも起こりうる、またすでに起きている間題であるといってよい。