啓発 疑惑の背景(こんなんで済まないよ)1

 

フランス司法当局の捜査情報等が、昨年から日本に対して以下の情報が入って来ていた。良く調べてあるがまだまだ。 

 2020年東京オリンピック誘致の際、日本の招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)委員の関連する会社に約23000万円を支払ったという疑惑。焦点は、次のように絞られてきた。

支払い先のイアン・タン氏は、それだけの支払いに見合う働きをしたコンサルタントなのか、それとも指摘されるIOC委員、ラミン・ディアク国際陸上競技連盟(IAAF)前会長の単なるダミーで、実態はディアク氏に対する贈賄資金だったのか――

疑惑の背景を探ってみたい。

オリンピックだけではなく、ワールドカップや世界陸上など、大きなスポーツイベントでは、開催地の決定権を持つ理事や委員などに、様々な形で「取り込み工作」が行われるのが常識だった。

背後には、スポーツイベントのビッグビジネス化がある。ソ連のアフガン侵攻を理由に、西側諸国が1980年のモスクワオリンピックをボイコット。その代替として、83年に第一回の世界陸上競技選手権大会がヘルシンキで開かれ、84年に「オリンピックを変えた最初の商業五輪」であるロサンゼルスオリンピックが開催された。

放映権料は跳ね上がり、スポーツメーカーなどがスポンサー権を求めて競い、ロゴやグッズ類までビジネス化された。そこにいち早く目を付け、スポーツ・マーケティング会社を立ち上げたのが、スポーツ用品メーカー大手「アディダス」創業家のホルスト・ダスラー氏と日本の電通だった。両者は、82年、折半出資でインターナショナル・スポーツ&レジャー(ISL)を設立する。

このISLが、ダスラー氏の急逝と、モータースポーツやプロテニスなど多面展開の失敗もあって、01年、6億スイスフランもの欠損を出して倒産する。スイス史上二番目の大型倒産で、それもあって債権者と検察当局の厳しい追及が始まり、ISLの経営陣は08年に起訴され、公判を迎える。

この時までに、経営方針の違いもあって、電通ISL株を売却、10%にまで落としており、それが幸いして、事件に巻き込まれることはなかった。だが、公判で明かされたのは、FIFAIOCに群がるスポーツマフィアたちの凄まじいまでの金銭欲であり、それに応えなければ開催権を得られないというワールドカップやオリンピックの現実だった。

裏ガネを欲しがるドンたち

このISLで明らかになった構図が、東京オリンピック招致の贈賄疑惑につながるので、もう少し続けたい。

ISL倒産までの10年間にスポーツ界のドンたちに支払われたのは15800万スイスフラン(現在のレートで約175億円)にものぼる。そこまで賄賂を渡せば経営が苦しくなるのは当然だろう。

「なぜそれほど長期に渡し続けたのか」と、判事が被告に尋ねたところ、「みんながしがるからだ。賄賂を渡さなければ契約してもらえない」と、被告はドンたちの貪欲を訴えている。

公判には「裏ガネ送金リスト」も提出され、そこには個人名ではなく何十もの企業名、ファンド名が記されていたが、そのオーナーを探ると、FIFAのアベランジェ前会長や、その女婿で南米サッカー界に君臨するテイセイラ執行委員などが浮かんできた。

経営から手を引いていた電通は、こうした工作には関与していない。ただ、後に、担当だった高橋治之元専務が『電通FIFA(田崎健太著)で明かしたところによれば、電通ISL株売却の際、売却益のなかから8億円をISLに渡している。目的は「02年ワールドカップ日本招致のための活動費」だったという。

同書では、高橋氏から「ロビー活動費の提供」という報告を聞いた小暮剛平会長(当時)の次の言葉を紹介している。

「高橋君、そのお金をどう使うか、すべてISLに任せた方がいい。日本では問題になるので、一切触らないように」

これが電通の危機管理だった。

ただ、スイスの法廷では、裏ガネを渡したISL経営陣も受け取ったスポーツ界のドンたちも罪に問われることはなかった。民間人に収賄罪は適用されなかったからである。

ISLが経営破綻しても、スポーツイベントのコンサルタントという職種がなくなるわけではない。貪欲にカネをしがるドンたちは健在である以上、ワールドカップやオリンピック招致における「ロビー活動」も必要だ。

そのため、ISLの置かれていたスイスのルツェルンに設立されたのが、アスレチック・マネジメント&サービス(AMS)だ。ここにはISLの幹部やスタッフや横滑りで就職した。そして、同社の名が登場するのが、今年1月、世界反ドーピング機関(WADA)が発表した独立調査委員会報告書だった。

今回は二週続いて掲載します。